愁いを帯びた表情、なめらかな絵肌、シンプルにそぎ落とされたフォルム。東郷青児が描く幻想的な女性の画像は一目見ればおそらく誰もがそれとわかるでしょう。それは、彼が東郷様式≠ニ呼ばれた独自の表現を持っていただけでなく、多くの人がその絵を見る機会に恵まれていたためでもあります。 あべのハルカス美術館で開催中の「生誕120年 東郷青児展 夢と現(うつつ)の女たち」は、大変な人気を誇った画家東郷青児(1897〜1978年)の、ごく初期から完成形といわれる1960年代ごろまでの活動の軌跡を追うものです。 約60点の作品のほか、彼が手掛けた書籍の装丁や雑誌の表紙、百貨店の紙袋、また巨大な壁画の作成などが展示され、その広範な活動の一端を見ることができます。また、藤田嗣治とそれぞれ描いた百貨店の壁画は、両者を見比べることでその表現の違いが感じられるでしょう。 戦前から東郷のモダンな女性像は人気がありましたが、その筆致を見ていくとどんどんと洗練され、常に更新されていっていることがわかります。現物でしか見ることができないその変化を鑑賞できるのも展覧会ならではといえるでしょう。
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