東京の鏑木清方、京都の上村松園と並ぶ美人画家が大阪にいた。それが北野恒富(1880〜1947年)だ。明治から昭和初期にかけて活躍した恒富は、大阪・南地の花街などに創作の拠点を置き、芸妓(げいこ)や舞妓(まいこ)など上方美人を描き続けた。その恒富の初の大回顧展、「没後70年 北野恒富展 なにわの美人図鑑」が、あべのハルカス美術館で開かれている。 緋(ひ)の襦袢(じゅばん)に締められた黒の伊達(だて)巻きが目を引く。この《暖か》は、芸妓の普段の暮らしを描写したもの。これをはじめ第1章に並ぶのは「画壇の悪魔派」と呼ばれていた初期のもので、妖艶で頽廃(たいはい)美あふれる作品が見るものを魅了する。 続く第2章では、落城寸前の淀君を描いた《淀君》に代表されるように、描写する対象の内面までも表現する意欲作を展示。深化する画家の表現力を目の当たりにすることに。さらに第3章では昭和初期の大阪の風俗や船場の旧家の風情などを描き、大阪モダニズム「はんなり」の境地へと達した恒富を紹介する。 他にも数多く描いた商業ポスターや素描、新聞の挿絵などを展示。また恒富の画塾「白耀社」から世に出た島成園や中村貞以など、大阪を代表する画家たちの作品も展示している。 あでやかな名品の数々が、戦前の大大阪の空気をも伝える大回顧展だ。 |